マチネス
マチネスはぼくのとなりで
あぐらをかいている
目はほどよく熟れた乳房であり
鼻は三万年の彼方のお尻であり
口は指が果てしなく吸い込まれてゆく
磯巾着だ
ぼくはマチネスを愛してしまった
やさしいマチネスはぼくに女以外の
すべてを与えてくれる
時にマチネスは僕とゲームをする
トランプの赤いのが出たら神にしてあげる
黒いのが出たら死.....
ぼくはそれでもう何回死んでいるかわからない
それでもマチネスとの愛は変わらない
外は雪が積もり
もはや窓も開かない
雲の隙間からほんの僅か日が差したのは
つい昨日の事だったように思えてならない
(1982.6)
※マチネスはmachinesの事を読み替えたような記憶がある。
Sonetto
光 むせかえすだけの光
黒い岩船は静けさの中へ投じられる
穴 べっこうを塗るだけに足らない穴
鐘のにおいは空の隅のほうへと帰ってゆく
それがすべてのはじまりだった
ものを云わないものたちの汗のかたまり
庭の死体は胸の中へ突き進んでゆく
四角の光 無数の四角は無限に近ずき遠のく
突然の血だらけの蜘蛛の糸
完全無比なる水晶は死の色よりも青い
それがすべて地の底から沸き上がる馬の群れとは知らずに
町は巨大な太陽のお陰で水飴の尾鰭をつけ
時計は終わりの時間を指して甘えている
ただ その時 ピンセットにつままれた蟻が十字架に掛けられた
(1982.9)
春の詩
春 野原一面に咲き乱れる 春
三人の撫で肩はいつも風に乗ってさまよう
砂は肌のぬくもりと同じ色をして
海の水はやさしくからだを嘗めまわす
真っ白な鹿が四頭 石に埋まっている
コアラたちはとっても美味しい 美味しくて涙が砂に落ちる
血が熱く熱く熱く熱く燃えて 緑の燃え粕が残る
皮膚は何度も裂けて とうとうなんにもなくなってしまう
突然 まつげの中の瞳が光を背にして隠れる
無数の足をかき分け 瞳を追いかけまわす
どこまでいっても突き抜けるだけで そのたびにまあるくなってゆく
手の届くものはそれぞれ甘いゴムのミルク
風は綿と共に耳を撫で 沈黙の臭いを運ぶ
この時 赤いアマナビは光の中に見事にそびえ立つ
(1982.10)
ついすと&しゃうと
幸せがくるりと輪を描いて
空気の隙間に消えていった
残ったものは黒の色だけ
躯の中には無数の蛆たちがうねり
臭っている
なあんにもないのなら すべて事が足りように
仮面を被ることが性に合っていないだけさ
何万匹の乳首たちがおしよせたからって
死の前には一粒の米に過ぎない
君に触れられないことは 君がまったく無いことと同じさ
突如として 力いっぱい嘔吐したくなる
内臓から骨に至るまでさらけ出したくなる
身は粉々に砕き よく洗って干す
真っ白になったら そっと土に返してやればいいさ
(1985.4)
四種の薬
1
夜が怒っている
かんかんになって怒っている
ぼくはイカになって
あたたかく おもてなしをする
2
もう 決して 決して 決して.....
友からも
女からも
ペルシァ人からも
誰からも
犬からも
ヘリコプターからも
日本からも
宇宙からも
神からも
認められようなどと思うな!
3
オリムパスの山のむこうで
魚たちはよからぬ事を考えている
計器類はお茶の中にどっぷりとつかり
秋の風をほのかに感じさせる
何もない 何も聴こえない平和な日々
4
亀のなかに 漂うことのない
天使たちよ
燃える ミシンの 針の 中を
イカロスのように 駆けぬける
その すばらしき 無意味!
聞こえる!
世の終わりの鐘の音が
風船に息を込めすぎた
顔のない赤児たちによって
鳴らされるのを
(1985.4)
ももエネルギー
水はかほりなき浮世の性にさらばした。
馬の恋、恋は相撲の町の下べ。
明日に向かって風をひき、ロックは滝のごとくごうごうと倒れる。
ヤンマーはパラパミーラとしない。
しずかなロザリはいざゆかん。
女たちの馬糞、こればかりは美味しく食べられる。
ゴミ屋のむかつくばかりのこってりした愛の歌。
唇からはサラミとスパゲッティティがにじみ出て、豚の思い出となる。
大地を揺さぶるおならはいい感じ、 とても いい 感じ。
巨人はふるいつきたくなるほどの幼児が盛られている。
さあ革命だ、いまこそカクメイだ。
革命なら青春をおいしくすることができる。
ほおずきの愛撫は、鰻のステンドグラスほどにひんやりしている。
朝だ、とうとうやってきた。
あさのきざしだ、ほら、
どこもかしこも朝の灯を破いている。
風だ、かぜもやってきた。
一億年の深い眠りの中から風がやってきた。
おかげで自分の腹に金魚がささってしまった。
ようく、仕込んでおかなくっちゃ、
舌はお嫁入りしてしまった。
おくら まいり つゆ参じつつ
空飛ぶカフカは何処へゆく。
まんじゅうには死ぬほど弾を撃ち込んでやれ。
加奈子のおっぱいからは、しぼれるだけのチーズをとれ!
いい本をあげよう、世界で一番はやい本だ。
はやいから もう お星様になっちやった。
指が北大西洋にくっついてしまって とれない。
足はというと・・・・もう昔のことだから忘れた。
ふざりし やと すこは 花びらの アイスクリーム
もう おそいからおやすみ。
たんぱく質をとらないとキリンになっちやうぞ。
虎はジャムかバターになったんだっけ。
俺はさしずめ盲腸になろう。
ふん! なにさ! あたいのおっぱいが九つあるからって、秋になってからめっきり寒くなりましたねぇ。
白銀のスポーツカーは毛むくじゃらの手でばりばり ばりばり ばりばりばりと引き裂かれ、とってもおなかがすいた。
カーテンの向こうにはやっぱり馬がいた。
虫下しは飲んだか。すてきね。
(1981.8)
苦行僧
君は 牛が転ぶところを想像しちゃいけない
なぜなら 近くにいる牛が本当にけがをするから
君は ミシンが宙に浮くことを想像しちゃいけない
なぜなら 町中の仕立屋が仕事にならないから
君は 飛行機の翼が折れる夢を見てはいけない
なぜなら 明日の新聞の第一面を飾ることになるから
君は 間違っても恋人の浮気を想像しちゃいけない
なぜなら 目の前で嫉妬と劣等感の針を突き刺されるから
君は お釈迦様と交わることなどみじんにも考えちゃいけない
なぜなら 三度目の生まれ変わりまでナーガの餌食となるから
君は 星が消える光景を絶対に思い浮かべてはいけない
なぜなら どこかで無数の文化と生命が一瞬のうちになくなるから
君は 空に写る巨大な馬の影を思い浮かべてはいけない
なぜなら それが来ると明日はいつもやってこない
(1986.6)
カルカッタ
巨大な象の背に乗った 何百万人もの餌たち
無数の車とリクシャーは 永遠のファンファーレを鳴らし続ける
糞をむさぼる乞食達は 荷車の下敷で笑っている
犬たちは無関心 牛も犬に習って無関心を装っている
カラスはといえば ずる賢くおこぼれを頂戴してまわる
すべては ゆっくりとゆっくりと前に進んでゆく
百年でわずか 砂山をひとつ崩す速度
急ぐ者は 観覧車をどこまでも駆け登っていく
誰も逃げられない 誰も時を感じていない
何もかも飲み込むカーリーは 大きな口をあけて待ちかねている
雷が鳴る いやというほど雨が地を打つ
すべてを破壊する者が この地に来たというのか?
万人の汗は汚物とともに 川に流れて何も残さない
地の底から湧き出てくる 計り知れない程のエネルギー
何を考えているんだ! 仮面を取ってみろよ!
蝿と蟻に覆われた マサラの香りを払ってみると
限りなくやさしい 自分の顔が浮かび上がってくる
枯れた花は 次の生への夢を見て眠っている
かすかに 頭の中の過去に バーティヤーリの響きが咲き乱れる
また 何かが消えて 何かが生まれる
餌を積んだ巨大な象は まだまだ何千頭と控えている
宇宙の終わりまで そしてまた 次の始まりから...終わりまで....
(1986.6)
踊り子
ねもみこみひそさ ねもみこみひそさ
いてねまねて ねまくこくまねも
あれは僕の音だ
誰の音でもない 紛れなく優しい僕の音色だ
火をつけると 忘却の彼方へ消えてしまう
彼女をどうしようと 誰からも咎められない
(1986.6)
1981年6月18日 朝日新聞のコラージュ(1)
うちのカメラに襲いかかる大統領
バイクの血ぬられた住みよい町に
よろめく足でハーレー・ダビッドソンときものまでの評価がよく似合う
嫁さんを連日の昼食サービススペシャルでござる
部下を持つテレビへ渡る母親大辞典
お求めやすい☆、高い、35.000円、私はやります☆、住民の友達がやります、私も一言☆をしないで、☆を借りただけ、いい子、ルールを守れ、心に響いた、抽選で、ニューヨークの大学病院で望みたい、ボーナス、前途は多難
以外と 海苔 カサ ピッカピカの世界
嫁さんを連日の昼食になお不満ではない
今度はお酒のスパイ ぼんやりまっしぐらでもなら
(1981.6.18.)
1981年6月18日 朝日新聞のコラージュ(2)川柳
ゆれる髪 ゴキブリ退治は ホモ文化
暴走族 ブーケの香りの 石が出た
まぼろしの ほらこのボタン すぐ真っ赤
神々の 天に花咲け 女学生
マンションを 残されたものの ボールペン
恋の騎手 砂利運搬船と 酒を飲む
暴騰後 松山千春を キンチョール
タイヤにも 初夏の街ゆく 大図鑑
ゴージャスな 微笑み揺さぶる 薬剤師
まるまるの 大人はびっくり 発売中
セールスに パンダをつぶせ バス旅行
ニワトリの 引きづり込んだ コンピュータ
裕次郎 邪馬台国と 再婚へ
チャウチャウの フルーツサロンと 清酒です
(1981.6.18.)
※朝日新聞の2篇は、その日の新聞にある見出し、キャッチコピーなどの言葉を切り抜き、インスピレーションで組み合わせた言葉の羅列遊び。 |